軸受は、その選定を誤らず正しく取り扱えば、寿命まで長くご使用いただけます。この場合の損傷状態はフレーキング(はくり)となります。
一方、意外に早く損傷する原因としては、取扱い上、潤滑上の配慮不十分で、さらに異物の侵入、取り付け誤差や軸のたわみ大、軸またはハウジングの見当不足などがあり、これらが重なり合っている場合が多い。
損傷状態から原因を探り対策を行ってください。
 
1.フレーキング
損傷状態 原  因 対  策
軸受が荷重を受けて回転したとき、内輪・外輪の軌道面又は転動体の転動面が転がり疲れによってうろこ状にはがれる現象。
過大荷重。
取付不良(ミスアライメント)。
モーメント荷重。
異物の侵入、水の浸入。
潤滑不良、潤滑剤不適。
軸受すきまの不適正。
軸・ハウジングの精度不良、ハウジングの剛性むら、軸のたわみ大。
さび、腐食ピット、スミアリング、圧こん(ブリネリング)からの進展。
荷重の大きさのチェックと使用軸受の再検討。
取付方法の改善。
密封装置の改善、休止時の防せい。
適正粘度の潤滑剤の使用、潤滑方法の改善。
軸・ハウジングの精度チェック。
すきまのチェック。
 
2.ピーリング
損傷状態 原  因 対  策
軽微な摩耗を伴ったくもりのある面を呈している。くもり面には表面から微小なクラックが深さ5〜10μm程度まで多数入り、微小脱落(微小はくり)が広範囲に起きる。
潤滑剤の不適。
潤滑剤への異物の侵入。
潤滑不足による面荒れ。
相手転がり部品の表面粗さ。
潤滑剤の選定。
密封装置の改善。
相手転がり部品の表面粗さの改善。
 
3.かじり
損傷状態 原  因 対  策
かじりとは、滑り面などに生ずる部分的な微小焼付きの集成によって起る表面の損傷。
軌道面、軌道面の円周方向の線状きず。
ころ端面のサイクロイド状のきず。
ころ端面の接するつば面のかじり。
過大荷重、過大予圧。
潤滑不良。
異物のかみ込み。
内輪・外輪の傾き、軸のたわみ。
軸・ハウジングの精度不良。
荷重の大きさのチェック。
予圧の適正化。
潤滑剤、潤滑方法の改善。
軸・ハウジングの精度チェック。
 
4.スミアリング
損傷状態 原  因 対  策
スミアリングとは、軌道面又は転動面において転がりに伴う滑りと油膜切れで生ずる微小焼付きの集成によって起こる表面の損傷。
溶着を伴う面荒れを生じる。
高速軽加重。
急加減速。
潤滑剤の不適。
水の浸入。
予圧の改善。
軸受すきまの改善。
油膜性の良い潤滑剤の使用。
潤滑方法の改善。
密封装置の改善。
 
5.欠け
損傷状態 原  因 対  策
欠けとは、軌道強のつば又はころの角の局 部的な部分に衝撃又は過大荷重が加わったために小部分に欠けることをいう。
取付け時の打撃。
過大荷重。
落下などの取扱い不良。
取付け方法の改善(焼きばめ、適正な冶工具の使用)
荷重条件の見直し。
軸受のつばのバックアップを十分にする。
 
6.割れ・クラック
損傷状態 原  因 対  策
割れとは、軌道輪又は転動体が割損することをいう。
継続使用すれば割れに発展するようなクラ ックも含む。
過大しめしろ。
過大荷重、衝撃荷重。
フレーキングの進展。
軌道輪と取付け部材との接触による発熱・フレッチング。
クリープによる発熱。
テーパ軸のテーパ角不良。
軸の円筒度不良。
軸の隅の丸みの半径が軸受面取寸法より大きいことによる軸受面取との干渉。
しめしろの適正化。
荷重条件のチェック。
軸取付け方法の改善。
軸形状の適正化。
 
7.保持器の損傷
損傷状態 原  因 対  策
保持器の損傷には、保持器の変形・折損・摩耗などがある。
柱の析損。
端面部の変形。
ポケット面の摩粍。
案内面の摩粍。
取付け不良(軸受のミスアライメント)
取扱い不良。
モーメント荷重大。
衝撃・振動大。
回転速度の過大、急加減速。
潤滑不良。
温度上昇。
取付け方法のチェック。
荷重・回転・温度条件のチェック。
振動の低減。
保持器選定の見直し。
潤滑剤、潤滑方法の見直し。
 
8.圧こん
損傷状態 原  因 対  策
金属の微粉、異物などをかみ込んだときに軌道面又は転勤面に生ずるへこみ。
取付け時などの衝撃による転勤体ピッチ間隔にできるへこみ(ブリネル圧こん〉。
金属粉などの異物のかみ込み。
取付け時又は輸送中の衝撃。
過大荷重。
ハウジングの洗浄。
密封装置の改善。
潤滑油のろ過。
取付け及び取扱い方法の改善。
 
9.なし地
損傷状態 原  因 対  策
軌道面又は転勤面に生じたにぶい光沢のなし地状の面。
潤滑剤中の異物のかみ込み。
空気中の水分の結露。
潤滑不良。
密封装置の改善。
潤滑油の十分なろ過。
適正な潤滑割の使用。
 
10.摩耗
損傷状態 原  因 対  策
摩耗とは、摩擦によって軌道面又は転勤面、ころ端面、つば面や保持器ポケット面などがすり減っていること。
異物の侵入。
さび電食からの進展。
潤滑不良。
転動体の不整運動による滑り。
密封装置の改善。
ハウジングの洗浄。
潤滑油の十分なろ過。
潤滑剤及び潤滑方法のチェック。
ミスアライメントの防止。
 
11.フレッチング
損傷状態 原  因 対  策
二面間の相対的繰り返し微小滑りによって生ずる摩粍。
軌道輪と転動体との接触部やはめあい面に生ずる。
赤褐色又は黒色の摩耗粉を発生することからフレッチングコロージョンともいう。
潤滑不良。
小振幅の揺動運動。
しめしろ不足。
適正潤滑剤の使用。
予圧をかける。
しめしろのチェック。
はめあい面への潤滑剤の塗布。
 
12.フォールスブリネリング
損傷状態 原  因 対  策
フレッチングのうち、転動体と軌道輪との接触部分において振動や揺動による摩耗が進みブリネル圧こんに似たくぼみを生ずること。
輸送中など軸受停止中の振動・揺動。
振幅の小さい揺動運動。
潤滑不良。
軸とハウジングの輸送中の固定。
内輪・外輪の分離包装による輸送。
予圧をかけて振動を軽減。
適正な潤滑剤の使用。
 
13.クリープ
損傷状態 原  因 対  策
クリープとは、軸受のはめあい面にすきまが生じたとき、はめあい面間で相対的にずれる現象をいう。
クリープを生じたはめあい面は鏡面あるいはくもった面を呈し、かじり摩耗を伴う場合もある。
しめしろ不足又はすきまばめ。
スリーブの締付け不足。
しめしろのチェック、廻り止めを施す。
スリーブ締付けの適正化。
軸・ハウジング精度の検討。
アキシアル方向の予圧。
軌道輪の側面締付け。
はめあい面の接着。
はめあい面への潤滑剤塗布。
 
14.焼付き
損傷状態 原  因 対  策
回転中に急激に発熱し軌道輪、転動体及び保持器が変色、軟化、溶着し、破損に至る。
潤滑不良。
過大荷重(予圧過大)。
回転速度の過大。
すきま過小。
水・異物の侵入。
軸・ハウジングの精度不良、軸のたわみ大。
潤滑剤及び潤滑方法の検討。
軸受選定の見直し。
はめあい、軸受すきま、予圧の検討。
密封装置の改善。
軸・ハウジングの精度チェック。
取付け方法の改善。
 
15.電食
損傷状態 原  因 対  策
電食とは、回転中の軸受の軌道輪と転動体との接触部分に電流が流れた場合、薄い潤滑油膜を通してスパークし、その表面が局部的に溶融し凹凸となる現象。
顕著なものはなし地状、縞模様の凹凸が見られる。
外輪と内輪間の電位差。
軸受部に電流が流れないように電気回路を設ける。
軸受の絶縁。
 
16.さび・腐食
損傷状態 原  因 対  策
軸受のさび・腐食には、軌道輪、転動体の表面のビット状さび、なし地状さび、転動体間隔と等しいピッチさび、全面さび及び腐食。
水、腐食性物質(ワニスガスなど)の侵入。
潤滑割の不適。
水蒸気の凝結による水滴の付着。
高温多湿時の運転休止。
輸送中の防錆不良。
保管状態の不適正。
取扱いの不適正。
密封装置の改善。
潤滑方法の検討。
運転休止時の防せい処置。
保管方法の改善。
取扱いの注意。
 
17.組込みきず
損傷状態 原  因 対  策
取付け、取外しなど取扱い時に軌道面及び転動面に付いた軸方向の線きず。
取付け、取外し時の内輪・外輪の傾き。
取付け、取外し時の衝撃荷重。
適切な治工具の使用。
プレス機の使用による衝撃荷重の防止。
取付け、相互間の心合せ。
 
18.変色
損傷状態 原  因 対  策
温度上昇や潤滑割との反応などによって、軌道輪、転動体、保持器が着色すること。
潤滑不良。
潤滑割との反応による油焼け。
温度上昇大。
潤滑方法の改善。